第二部各論 第1章12節 周りと私は違う。私だけが不安? 要領が悪い? 境界知能について 

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01:11 知性について
03:47 IQとは
04:44 能力や知性は平等ではない
06:23 知性は「多因子」
08:24 境界知能
09:41 なぜ境界知能が問題になっているのか

今日は「境界知能」について解説します。

・私はなぜ他の人より不安になりやすいのだろう
・なぜ他の人より要領が悪いのか
・甘えているのではないか
などと悩まれている方が多くいらっしゃいます。
実際は、「境界知能」であるから悩んでいることが多くあります。

残酷なのですが、人間の知性はばらつきがあり、皆平等ではありません。
そのばらつきの中でたまたま低い側に回ってしまった方がいて、その結果あまりうまくいかずうつになってしまうパターンがあります。

このようなものを「境界知能」と言いますが、これを今回お話ししようと思います。

■知性について

身長に高い低いがあるように、知性にも高い低いがあります。

人間は相対的な生き物です。
社会の中で人間同士、相対的なランク付けがされてしまうのでやはり低い人もいます。

他の動物から見たら人間の知性はまとまっていますし、人間よりはるかに賢い宇宙人から見たら人間の賢さに大した差はないのではと思いますが、人間の中にいると小さな差は問題になりやすいです。

IQを正規分布になるように引くと、IQ70以下(2.2%)を「精神発達遅滞」と言ったりします。
精神発達遅滞ではないけれど、なるかならないかのギリギリのところ、IQ70~85の人たち(7人に1人)は「境界知能」と言われます。

全体から見ると、頭脳労働が苦手な人たちになります。
もっと低いと社会参加や会社で働くことが困難になるので会社にはいないのですが、会社にはぎりぎり入ることができます。ですが頭脳労働が苦手なので、働いていてもうつになってしまうことがあるのです。

すごく不安になったりしますし、変化が多いことが苦手だったりもします。
また、マルチタスクが苦手で、仕事量も他の人よりこなせなかったりします。

そうすると自分に自信をなくしてしまい、甘えているのではないかと思ったり、人から怒られたりしてうつになってしまうことが多くあります。

本来は皆から離れたところにぽつんといるのですが、他の人からはその人が境界知能だということが見えていません。

■IQとは

IQとは何かというと、概念的には「精神年齢/生活年齢(目安)」となります。

年の割に精神年齢が高いとIQが高いということになりますし、年の割に精神年齢が幼いとIQが低いということになります。あくまで目安ですが、この目安は結構役に立ちます。

例えばIQ70というのは、周りが20歳の時に自分ひとりが14歳ということです。
本当に大人の中に子供が混ざっているような感じで、付いていけずに無理をしている感じになります。

■能力や知性は平等ではない

人間の能力や知性は、漠然と皆さん平等だと思っていると思います。

運動神経に差があるのはわかっているけれど、頭の良し悪しや知性に関しても差があると思っていないことが多いです。
でもそんな事はなく、能力や知性は平等ではありません。

あることが得意な人は別のことが苦手、苦手なことがある分得意なことがあると思いがちですが、そういうわけでもありません。
不得意がある分得意がある、トータルで見れば平等なんだということもないのです。

そこの世界観、人間というものの動物性、脳の本質を理解するのは常識を疑わなければいけないので難しいです。

頭でわかっていてもこれを腹の底から理解するようになったのは、僕も精神科医を何年かやって臨床していく中でのことです。
ですから、努力をすればうまくいくということは我々精神科医は言いません。
社会保障がうまく救うことができないというのもよくわかります。

■知性は「多因子」

知性というのは、できる人は全部できる、できない人は全部できないということでももちろんありません。
多因子でありいろいろな要素が集まって知性は成り立っています。

音楽の才能、言語の才能、数学の才能、図工の才能、運動の才能、これらは全部別のものです。
このように知性というのは多因子なので、だからこそ凹凸もあります。

もっと細かく分けることもできます。
音楽の中でも作曲、聴き取るなどいろいろな要素に分けられます。
非常に多くの要素に分かれており、脳科学的にもそれはわかっていて、いろいろな要素の絡み合いがあるため凹凸があります。

全体的に低ければ「精神発達遅滞」や「知的障害」と呼ばれますし、全体をならせば高いけれどその中で凹凸が大きく、低いものが足を引っ張っている場合は凹凸があるから「発達障害」と言ったりします。

学問的なところではわかっていなくても、臨床感覚としてわかっていることはたくさんあります。そのような話だと思ってください。
経験や学習と、元々持っている体質的なものとの複雑な組み合わせをもって知性と言いますが、そうは言っても差はあります。

■境界知能

境界知能の場合は、親が教育熱心だったり本人も頑張り屋さんの人が多いので、努力によって成績だけは良いパターンがあります。

「何とか大学に入れた、だけどFランだった」ということもあれば、なんとか無理をして良い大学に入っていることもありますが、なかなかついていけなかったりしますし、卒業して会社に入ると地頭の差ですごく困ってしまうことがあります。

知性は見た目ではなかなかわかりませんし、喋っている語彙数でもわからなかったりします。
僕も診察しているときに、初診の段階でその人の知性をすべて見抜けるわけではありません。ですがやはり回数を重ねていく中で、その人の欠落や弱さがようやくわかってくることがあります。

初診や学歴だけでもわかりませんし、心理検査をすれば全部わかるというものでもなく、話していく中でその人の欠点がだんだんわかってきます。

■なぜ境界知能が問題になっているのか

ではなぜ最近、境界知能が問題になっているかというと社会変化のためです。
社会変化によって頭脳労働が増えた結果だと思います。

昔は体を動かすことや単純作業がありましたが、どんどんそれらがなくなりもっと頭を使う仕事が増えています。
機械がやれることが増えているので頭脳労働が増えています。その結果、困っている人たちが多くいるということです。

これは相対評価です。
頭脳労働をする結果、できるできないがわかりやすく出てしまうので、苦手な人が浮き彫りになってしまいます。
できないわけではないのですが、他の人の2倍の時間がかかってしまうとすごく目立ってしまうということです。

・産業革命での失業者は?
産業革命の時に失業者が増えました。
これから頭脳労働が増えていくときに、彼らが働ける場所があるのかということも問題かと思います。
働けない人はどうしたら良いのか、新しいビジネスができるから待てば良いというわけにもいきません。でも今働くにはなかなか難しかったりします。

この問題は診察室でもよく話します。親御さんから相談されることもあれば、本人から相談されることもあります。
その結果、自信をなくしてしまい引きこもりになってしまうパターンもあります。

・虐待、ヤングケアラー
背が高い親から背が高い子供が生まれるように、ある程度知性やIQは遺伝性があります。
養育する親もいっぱいいっぱいになってしまい、子供に手をかけられないというパターンがあり、虐待やヤングケアラーの問題が起きたりします。

「低め(親)・低め(子)」になってしまった時に、親子関係でもトラブルが起きてしまったりします。
どうしたら良いのだろうとなったときに子供に家のことをさせ、子供も勉強ができなくなってしまい、社会で生き残る力をつけられない、自分に時間を割けなくて大人になってからもうまくいかないというパターンが結構あります。


境界知能の話は臨床でもよくあります。
どうしたら良いのかと常に思っていますが、本当に差別ではないのです。
相対的なものなので良い人もいれば悪い人もいるということです。その中で弱者になったときに、社会はどのように手助けしていくのかが重要です。

彼らが甘えているとか努力不足だということではありませんので、それを認めてあげるようにします。
かといって、「自分は劣っている」という現実を突きつけられた時に、どうやって自分の心を回復していくのか。

言わないことが良いわけではありません。
やはりきちんと現実を見つめなければなりませんので、診療のどこかのタイミングで言わなければいけません。

ですが、これを言わない医者がいます。
言わずに「全然良くなりませんね」と薬だけ出したり、嫌なことを言うのを避ける治療者、支援者もいます。
タイミングを見ていたということもあるかもしれませんが、言わなければいけないことはあると思います。

もちろん1回のテストで全てを決めるべきではないということもあります。テストは変動するものです。
良い時もあれば悪い時もありますが、でも悪い時もあるということをきちんと理解して、きちんと評価してあげる必要があると思います。
あくまで目安ではありますが、普段の生活歴の困難さを理解しつつ評価するようにします。

臨床していて、僕も「こんなことを言ったら相手は傷つくかな」と思いますが、案外境界知能のことを話すときは、本人も受け入れやすいことが多いです。今まで苦しかったことが自分の努力不足ではなく、自分の体質だったのだと知った方が安心する患者さんの方が圧倒的に多いです。

今回は「境界知能」についてお話ししました。

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 一般の方向けに、わかりやすく、精神科診療に関するアレコレを幅広く解説しています。動画における、精神分析や哲学用語の使用法はあくまで益田独自のものであり、一般的(専門的)な定義とは異っているところもあります。僕がもっとも説明しやすいとたまたま感じる言葉を選んだだけなので、あまり学術的にとらないでいただけると嬉しいです。
  早稲田メンタルクリニック院長 益田裕介

『自己紹介』
益田裕介
防衛医大卒。陸上自衛隊、防衛医大病院、薫風会山田病院などを経て、2018年都内で開業。専門は仕事のうつ、大人の発達障害。といいつつ、「なんでも診る」ちょっと変人よりの町医者です。
趣味は少年ジャンプとお笑い。キャンプやスキーに行きたいです。
2020年6月5日より断酒継続中。

【参考】
厚労省みんなのメンタルヘルス https://www.mhlw.go.jp/kokoro/
カプラン 臨床精神医学テキスト第3版
倫理規定について https://note.com/mentalyoutubers/n/nb...

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