#06 三橋鷹女~鞦韆は漕ぐべし愛は奪ふべし~

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鷹女 俳句
向日葵
大正十三年〜昭和三年
すみれ摘むさみしき性を知られけり
蝶とべり飛べよとおもふ掌の菫
昭和四年〜昭和九年
霜折れの道のべを行くソフトかな
一とむらのおいらん草に夕涼み
新宿のよべぞセル箸てゆくべかり
桜桃のみのれる国をまだ知らず
日本の我はをみなや明治節
羽子板の裏絵さびしや竹に月
昭和十年〜十一年
夏痩せて嫌ひなものら嫌ひなり
初嵐して人の機嫌はとれませぬ
つはぶきはだんまりの花嫌ひな花
あすが来てゐるたんぽぽの花びらに
卯月来ぬ自分に飽きてゐる自分
ひるがほに電流かよひゐはせぬか
颱風はいそぎんちやくのおどる闇
みんな夢雪割草が咲いたのね
平凡なをんなに咲きぬま
火蛾は灯に聴覚失せてゐる眠り
芥子散つて了ひぬ微熱乳房に
風鈴の音が眼帯にひびくのよ
曼珠沙華咲いてまつくれなゐの秋
戦火拡大す
凍て道のいくさのことは口に言はず
えぞ菊に平仮名を憶ひ出さうとする
しんしんと夜はまつかの燃ゆるなり 
昭和十四年〜昭和十五年
子と母に冬日こぼるる爛々と
春愁の真昼は濃ゆき文字を書く
夏野原征くべき吾子を日に放ち 
「魚の鰭」
昭和十四年〜昭和十五年
にごりなき心に菊を咲かしめぬ
英霊となり炎天をかへり来給へり
炎天に愛しみあへり鶴と女
 かなしみあえりつるとひと
瞳に灼けて鶴は白衣の兵となる
ひまはりの昏れて玩具の駅がある
蟷螂も燃ゆるカンナの中に棲めり
愛猫を抱く秋風のうしろまへ
おもひ崩れゆきつつ耳に蟲鳴けり
この樹登らば鬼女となるべし夕紅葉
笹鳴に逢ひたき人のあるにはある
笹子鳴くこの帯留が気に入らぬ
夏深く我れは火星を恋ふをんな
ひと来ねばカットグラスの夜がいびつ
緋に憑かれ黄には疲れて夕カンナ

「白骨」
昭和十六年〜昭和二十年
かまつかは燃え急ぎ吾は縫ひ急ぐ
火蛾去つて残月女の眉を奪ふ
卒業の近づく子へ
渡鳥見てゐる吾子もみてゐるか
蔦枯れて緋い鎧わが夢に
花冷えの鼻梁正しく立ち並べり
虹現れよ荒鷲の天に虹現れよ
子を恋へり夏夜獣の如く醒め
くちびるに夜霧を吸へりあまかりき
虹二重傷痕秘めて語らねど
菊白し菊より白きゆめ一つ
あねいもと性の違へば秋日も二つ
かなしめばとて秋雲のとどまらず
昭和二十一年~二十二年
月日経ぬ雪解の雫百方に
椿落ち椿落ちここと老いゆくか
中年の辛夷を愛づる限りなく
コスモスの戦後の花影踏むなよ君
寒月にもつとも近く居ると思ふ
うちかけを被て冬の蛾は飛べませぬ
冬川とわびし男の饒舌と
冬雲の行方を誰が知りませう
昭和二十三年
溜息に田螺を生みぬあはれあはれ
春の虹をんなの髪の乾く間は
ばら剪つて青年ギリシャ語をつぶやく
春浪に女は尾鰭のなき歎き
梔子のあたり死神さまよへり
一八の花のほとりに封を切る
炎天の蝶のあいびき誰も見ず
百日紅何年後は老婆たち
ちぢれゆく女の髪や法師蝉
秋暑く鶏頭Y氏の如く佇つ
昭和二十四年
じんじんと春日を胸に忘るべし
蛍籠はをんなの眉の高さに吊る
千万年後の恋人へダリヤ剪る
月見草はらりと地球うらがへる
向日葵の大輪切つてきのふなし
半生の手記ぼろぼろに黄水仙
昭和二十五年
友情の花咲こぼれ一日雪
猫柳女の一生野火のごと
恋猫にひらり三日月落ちかかる
哲学の田螺を投げて蒼い穹
春眠のふためき覚めて何かある
春暁のまっくろ鴉うたがはず
チューリップ或る日或る刻老い易く
虹消えて了へば還る人妻に
麦秋の蝶になぐさめられている
炎天を泣きぬれてゆく蟻のあり
老い急ぐ秋光(かげ)を身にびつしりと
白露や死んでゆく日も帯締めて
鍵穴を冬が覗けり語らずも
老いながら椿となつて踊りけり
昭和二十六年
冬鵙は孤りの我を置き忘れり
雛の夜は雛に仕へて老いざりき
菫咲く地の一角を鬼門とし
五十の失語紋白蝶が鼻先を
鞦韆は漕ぐべし愛は奪ふべし
をんな老ゆ虻蜂とんぼ世に廃れ
天が下に風船売となりにけり
老ゆるべし虹の片はし爪先に
競ひ咲く花にはあらず芙容咲く
蟲時雨わが哭くこゑもその中に
みみづくが両眼抜きに来る刻か
かなしびの満ちて風船舞ひあがる

「羊歯地獄」
昭和二十六年
琵琶が咲く金の指輪の指細り
草の花記憶のほとり夕焼けて
足触れて夜萩は濡れてありしかな
葉ばかりのカンナとなりぬ禱りつつ
棘痛き薊を愛す何の罪科
目をつむり一語一語が露となる
山肌に西日べつとり生き抜かぬ
鷹老いぬ夜明けは常に頭上より
枯蔦は焼くべし焼いてしまふべし
昭和二十八年
鴨翔たばわれ白髪の媼とならむ
吾が影が居て寒鮒を濁らしむ
氷らんとしては泥沼の泥の沼
葉牡丹の渦のまんなか我が一生
手に皴を刻む春水うづたかく
庭そのに不向きな赤い唐辛子
秋の蝶です いつぽんの留針です
生き地獄血の池地獄氷初む
森にいて薊は白毛とばすなり
四月尽く凧の慟哭地におろし
石がとぶ石がとぶ水すまし澄む
蝉の声の真只中の空蝉よ
黒蟻の吐息の黝き無風帯
けんらんと死相を帯びし金魚玉
青葡萄天地ぐらぐらぐらぐらす
踊るなり月に髑髏の影を曳き
哭き呻く接木接目に繃帯す
密談や夜明の星と風の樹皮
昭和三十年
卒業や造花のバラに蕋を植ゑ
ひまはりかわれかひまはりかわれか灼く
向日葵を斬つて捨つるに刃物磨ぐ
俗名や月の向日葵陽の向日葵
瞳を据ゑゐて冬虹を牽き出す
七夕や男がうたふ子守歌
花火待つ花火の闇に脚突き挿し
切断一歩手前の虹を手繰りとる
わが行くにどの寒木も軀を躱す
昭和三十二年
寝て覚めて炎昼何の音も無し
昭和三十三年
老婆切株となる枯原にて
薄氷へわが影ゆきて溺死せり
波を織り波を織りつつ透き通る
岬へ急ぐ一羽の鴉従へて
昭和三十四年
雪をよぶ 片身の白き生き鰈
燃ゆる間がいのち 女と唐辛子
土牢を這ふ 一匹の土の蛇
巌氷る 怒髪のうにを置き曝し
讃美歌や 足長くらげ手にとろけ
大海のまんなか凹み死魚孕む
昭和三十五年
羊歯地獄  掌地獄  共に飢ゑ
蘖ゆる 切断局部微熱もち
すがめのひがめの白繭作り  墓作り
梅干してをんなの生身酸つぱくなる
墜ちてゆく 炎ゆる夕日を股挟み
昼山火事へ一本の羽毛が走る

「橅」
追悼編
河が光つて夜はねむれぬ唐辛子
沖近くなる痩身のかざぐるま
囀や海の平らを死者歩く
耳に火の針散るだけの桜散り
藻にしらが流れのそこに稚魚を飼ひ
墓原や椿咲くより散りたがる
瞼に梅が香夜のくすりを舌にのせ
わらはぬ老人隙間があれば苔を貼り
椿一重死は生き生きと蕋の中
生き作り砂丘に万のしらが植ゑ
こめかみに土筆が萌えて児が摘めり
孤りでよし満開島の花藻敷き
蜥蜴いづべろんべろんと 絃楽器
はるかな嘶き一本の橅を抱き
老鶯や泪たまれば啼きにけり
海は手鏡没日に鮨を傾けて
佛滅や老牛の尾に蝶生まれ
巻貝死すあまたの夢を巻きのこし
田螺鳴く一村低く旗垂らし
胃は月型風の瞼をしばたたき
自愛編
ため息のびつしり重い梅を挘ぐ
校庭や乳歯が抜けてさくらんぼ
鍵屋老い九月の真紅の鍵作り
枯羊歯を神かとおもふまでに痩せ
金銀の花ちる水を飼ひ殺し
歳月や枯野おもへばこそばゆし
海は老年底の深きに鯛眠り
荒海にめしひて鯛を愛すかな
喪の海やひらひら鰈喪にこもり
松に新芽少年毬となり弾む
「橅」以後 句集未収録作品
藤垂れてこの世のものの老婆佇つ
巣ごもれり細眼に蘆を刈り揃へ
あぢさいの闇夜も知らぬ深眠り
うつうつと一個のれもん姙れり
曼殊沙華うしろ向いても曼殊沙華
遺作二十三章
千の蟲鳴く一匹の狂ひ鳴き
影を織る水引草の夜明かな
枯木山枯木を折れば骨の匂ひ
寒萬月こぶしをひらく赤ん坊

参考文献

三橋鷹女の一〇〇句を読む: 俳句と生涯    川名大 著

現代俳句の世界 橋本多佳子・三橋鷹女集 11  朝日新聞社 編

成田市図書館デジタル資料「三橋鷹女」   川名大 著
https://www.library.city.narita.lg.jp...


円錐〇号  莉々花の部屋 「三橋鷹女」

増殖する俳句歳時記  三橋鷹女

フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 「三橋鷹女」

素材提供
「nakano sound」 https://www.nakano-sound.com
         作曲 nakano

素材提供
「red bears」 https://www.nakano-sound.com
         作曲 nakano

サイト: 甘茶の音楽工房
URL: https://amachamusic.chagasi.com/
https://www.nakano-sound.com/

音楽:BGMer
http://bgmer.net

著作者:yingyang/出典:Freepik

饅頭遣いのおもちゃ箱 https://manjubox.net/

nicotalk&キャラ素材配布所 http://nicotalk.com/charasozai_yk.html


 過去の俳人を紹介するチャンネルです。もーのーすごーくゆっくりですが、
たまに遊びに来ていただけると嬉しいです。
 
今回の俳人は三橋鷹女(東鷹女)です。
鞦韆は漕ぐべし愛は奪ふべし
私が俳句を書き始めに、衝撃を受けた作品です。
新聞の片隅に載っていたこの句は、たちまち愛誦句となりました。
 「俳句表現は古臭くない。現代の表現にも耐えうる形式だ」
このような認識が初めから私の中にあったのは、
この句のおかげでもあります。鷹女に感謝です。

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