【たまご高騰】「もう戻らない」生産現場で何が起きているのか『QUESTION!みんなのギモン』

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ここ数十年、小売価格がほとんど変わらないことから「物価の優等生」と言われてきた卵の価格が、いま高騰している。そしてこの価格は「もう戻らない」という関係者も。卵の生産現場でなにが起きているのか。農水省担当記者が、食卓を脅かすそのギモンに迫った。

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4月中旬、都内のスーパーを取材した。卵の価格は高騰し、高止まりが続いている。LLサイズは298円、赤玉は308円。278円のLサイズはもう売り切れている。物価の優等生として食卓を支えてきた卵だが、いまや“高級品”だ。LLサイズを手に取り悩んでいた客は、「やっぱり少しでも重い方が…」と本音を漏らした。

小学校低学年くらいだろうか、女の子は母親のもとを離れて卵売り場に駆け寄ると、Mサイズのパックを手にして、母親の方を振り向いた。

女の子
「卵焼き」

──(記者)卵焼きが好き?

母親
「親としては、きょうは避けたいかな」

──どうしましょう?

女の子
「買う」

母親
「2個ぐらい残ってるかも。今日じゃなくてもいいかもよ」

女の子
「でも、これ買いたい」

母親
「じゃあ、買うか」

そう言って母親は、卵を買い物かごに入れた。

卵の価格高騰には、みんな頭を悩ませているようだ。それは、スーパーの担当者も同じようで、「過去、例にない値段です。100円ぐらい上がっちゃってますね」と言う。

──だいぶ品薄感もあるんですか?

スーパーの担当者
「そうですね。Lサイズは発注した数に全然合わないくらい。少ない数しか、ちょっともう…」

卵の卸売価格は最高値を更新し続け、その影響はレストランやコンビニにも波及している。ガストやバーミヤンでは、2月から天津飯など卵を使った料理の一部を提供休止。大手コンビニチェーンのセブンイレブンは、サンドイッチの卵の量を減らしたり、一部商品の販売を休止したりしている。箱根の人気観光地・大涌谷名物の「黒たまご」は、1個減って4個入りになった。

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卵ショックを取材するのは、日本テレビ経済部の陸口考史記者だ。農林水産省を担当し、食品などの日々の値上げには機敏に反応する。

陸口記者「いやもう、ぼくも朝オムレツ作るとき、卵3つ使うところが、2つに減りましたからね」

陸口記者は、家庭に帰れば3人の子どもの父親だ。朝ごはん担当で、毎朝オムレツを作るからこそ、卵の値段は気になっていた。

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「見えてきましたね。ものすごい数の鶏舎が並んでいます」

この日、陸口記者が向かったのは、青森県三沢市にある養鶏場「東北ファーム」。去年12月に鳥インフルエンザの感染が確認され、国内最多となる139万羽の殺処分を行った養鶏場だ。

卵の値上がりの主な原因は、過去に例を見ないほどの鳥インフルエンザの感染拡大だ。国内の養鶏場などでは今シーズン、鳥インフルエンザの感染が84件確認され、1700万羽以上を殺処分した。この数は過去最多だ。

東京ドームおよそ9個分の面積を持つ東北ファーム。その敷地には47棟の鶏舎が並ぶ。奇妙だったのは、敷地内の道が真っ白になっていたことだ。

──地面が真っ白になっていますが。

品質管理部 高見澤弘明次長
「これは消石灰です。目に見えないウイルスを広げないために」

消石灰はウイルスの消毒に使われるもので、東北ファームでは感染前からまいていたという。

──トラックがゲートをくぐって来ましたけど、あのゲートは何ですか?

品質管理部 高見澤弘明次長
「消毒ゲートになってまして、農場に入る車両は、全て消毒ゲートを通過して入場となります」

──消毒に次ぐ消毒ですね。

品質管理部 高見澤弘明次長
「そうですね。万全なかたちで臨んでおりましたけど、残念ながらこういうかたちになってしまった」

去年12月に消毒作業が完了。その後、周辺に感染は確認されず、今年1月にニワトリなどの移動制限が解除された。鶏舎の中は、いまどうなっているのか。まず、防護服に着替えてから場内に入る。そして、消石灰がまかれた白い道を進んで、一棟の鶏舎の前まで来た。

養鶏場の担当者
「(殺処分前は)約3万8000羽のニワトリが飼育されていた鶏舎になります」

鶏舎に入る前には長靴を消毒。そしてその長靴の上からさらにカバーをかける。なん重にも消毒を徹底して、完全防備で扉のなかに入ると──。

養鶏場の担当者
「ご覧のとおり、ニワトリは1羽もいない状況です」

隅々まで磨かれた広い鶏舎は、ガランとして静まりかえっていた。養鶏場で1羽でも感染が確認されると、その養鶏場のニワトリはすべて殺処分するよう法律で定められている。消毒などの作業が完了してから4か月ほどがたったが、いまだ卵の生産の再開はできていなかった。

鳥インフルエンザウイルスは、大陸から飛来する渡り鳥が運んでくるとみられている。感染した渡り鳥からカラスやスズメなどの野鳥に感染が拡大し、感染した野鳥などが鶏舎の中に入ることで、ニワトリにも感染していくとされている。そのため、この鶏舎にはある特徴があった。

養鶏場の担当者
「こちらウインドウレス鶏舎は、窓がないタイプの鶏舎となっております」

窓のない鶏舎──。ここまで対策を徹底したのに、なぜ感染したのか。

──(記者)原因は分かっているんですか? 

品質管理部 高見澤弘明次長
「原因は正直分かっていない状況です」

感染経路は調査しても分からなかったといいます。卵の生産は、いつ再開できるのか?

品質管理部 高見澤弘明次長
「問題なければ6月から導入」

再開が6月ということは、去年12月に感染が確認されてから半年以上だ。再開されれば、ニワトリを1か月ごとに数万羽ずつ鶏舎に入れ、徐々に生産を増やす予定だ。

──もとの生産量に戻るには、どれくらいかかるんですか?

品質管理部 高見澤弘明次長
「1年から1年半と見込んでいます」

完全に復活するには、まだまだ時間がかかるという。

併設する工場では、かつて一日に70万個の卵をパック詰めにし、首都圏や東北のスーパーに届けていた。しかし今は、段ボールもきれいなまま山積みにされ、ほとんど稼働していない。養鶏場が失った売り上げについて社長は──。 

東北ファーム・山本彌一社長
「約70億円の売り上げがゼロ」 

鳥インフルエンザの被害を少しでも抑えるため、東北ファームではこれから「分割管理」を導入する予定だ。分割管理とは、養鶏場を複数のブロックに分け、作業員などがほかのブロックと接触しないように管理する。1つのブロックで感染が確認されても、他のブロックでは、生産が続けられるという方法だ。農水省は、大規模な養鶏場などに分割管理の導入を検討するよう推進しているが、設備投資や人件費など、コストがかかることが課題となっている。

ニワトリのエサ代や鶏舎の光熱費なども高騰する中、今後の卵の価格はどうなるのか。山本社長は次のように話した。

東北ファーム・山本彌一社長
「(180円~190円には)戻らないと思います。卵はもう昔のような物価の優等生にはなれない」

      ◇

収まる様子を見せない卵の価格高騰と品薄。今後どうなるのか、取材した陸口記者に聞いた。

──卵の価格は下がらないという話がありましたが、実際にはどうなんでしょうか?

陸口記者
「いろんな養鶏場を取材しても、スーパーの関係者を取材しても、しばらく下がる様子は見当たらないというのが、正直な感想です。5月くらいまで鳥インフルエンザが流行しているんですけれども、これから先ですね、11月から再び流行する可能性が高いということなんです」

──一年の半分近くが、鳥インフルエンザの流行期になるということですか?

陸口記者
「そうなんです。北海道大学の迫田義博教授によると、これまでは数年に一度の流行でしたが、今後は、毎年流行するのも覚悟しておいたほうがいいということです」 

──毎年流行する? なんで流行するようになってしまった?

陸口記者
「それは、鳥インフルエンザウイルスが変異したからなんです」

──変異した?

陸口記者
「以前は感染したら、多くの渡り鳥が死んでしまっていた。つまり、感染した渡り鳥が日本に渡ってくるということ自体が少なかった。それがウイルスの変異で、感染しても渡り鳥が死ななくなったため、ウイルスをもったまま日本に渡ってくるようになってしまった。それで、毎年流行するようになった」

──毎年流行するとなると、卵の価格はなかなか下がらない?

陸口記者
「鳥インフルエンザが流行する前は、ひとパック200円前後で販売されていましたが、今後は、300円前後で推移していく可能性が高いとみています」

──毎日の食卓に欠かせないものですから痛いですね。

陸口記者
「そうですね。鳥インフルエンザの流行期をどうすれば減らすことができるのか、今後、頭を悩ませることになりそうです」

──経済部の陸口記者でした。ありがとうございました。
(2023年4月22日放送報道特番『QUESTION!』より)

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