「海岸通」風(松岡茉優)

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1975年6月5日発売の、風のオリジナル・アルバム『風ファーストアルバム』のA面2曲目に収録されている。
アーティストの意向によってリード・シングルが一切収録されなかったために売れ行きが懸念されたものの、1975年度のオリコンアルバムチャート1位を獲得。
また1979年4月25日、イルカの歌唱によるカバーバージョンが、シングルとして発売されヒットした。こちらは佐藤準が編曲を担当した。


作詞:伊勢正三
作曲:伊勢正三
編曲:瀬尾一三


かつて、伊勢正三の育った大分県の家は、津久見港がすぐ目の前の「海岸通」にあった。
その頃の港は埋め立てられ、今はホテルやスーパーが建つ。

『なごり雪』は駅での別れを歌っているが『海岸通』は、夕陽がきれいな港の別れの情景だ。
今も津久見港から保戸島への船が出ているから、この津久見港から出航する船を伊勢は中学生のころまで日常的に見ていたにちがいない。
『海岸通』も、おそらく自分の生家から見えた風景が源になって創られたものだったと思われる。

実は伊勢が出演したラジオ番組では、津久見にあった生家の住所が当時「海岸通」という地名であったことを話していたし、アルバムのライナーノーツには、そばに「海岸通」というストリートが実在したと書かれていた。

船の別れが、津久見駅から出る列車がすぐトンネルに入って見えなくなってしまうのとは対照的に、「あなたを乗せた船」が津久見湾を小さく遠ざかっていくのがしばらく見えたわけで、これが「私への思いやり」だったのだろうか。それでも別れのテープはいつかは切れるもの。

これも伊勢本人がラジオで言っていたことだが、津久見からは小さな船しか出入りしないから、もっと大きい船を想像して創ったけれど、のちに伊勢自身がコンサートのため隠岐へ行った帰り、隠岐の港でスピーカーから『海岸通』が流され、船上の伊勢が別れのテープを持って、ほんとにテープが切れるまで見送ってもらったことが印象に残っていると語っていた。

この歌は『なごり雪』の翌年、1975年リリースで、同じく去っていく恋人を見送る歌。そしてこちらは、船はもう港を出た後。彼女がひとり残された場面から始まり、彼は登場しない。全編、彼女のモノローグ、一人語りだ。ただ、やはり現在形と過去形が、うまく使い分けられている。

 まるで昨日と同じ海に波を残して
 あなたをのせた船が小さくなってゆく

と繰り返して終わることで、この歌は港に立ち尽くす彼女の視線に戻って、描かれるのは最初から最後まで、彼女が見つめる港の風景だけだ。あえて彼女の姿や表情を描かないことで、想像の余地が残り、余韻が残るんだろう。

#海岸通
#松岡茉優

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