Скачать или смотреть 館長の美術館ザッピング74「猫を愛でたい」の見どころ③（１2月８日まで）◎菱田春草《黒猫》と《猫に烏》　天心記念五浦美術館

館長の美術館ザッピング74
小泉晋弥館長が、美術館を歩き回って気づいたことを綴ります。
「猫を愛でたい」の見どころ③（１2月８日まで）
◎菱田春草《黒猫》と《猫に烏》
菱田春草は、横山大観と並んで日本画の革命児である。江戸時代までの猫絵と比べてみるとその違いがはっきりと見える。《黒猫》には、背景が全くないのだ。絹地の上に黒猫と柿の枝葉と実だけが描かれている。これには琳派の影響と言われているが、私はそれ以上の問題を抱えていると思う。
この描き方は、《落葉》を発展させたものだ。ひとことで言うと空間のリアルさを捨てて、絵の面白みをとったのだ。「写実よりも理想」という天心以来の日本美術院の目標が達成されている。さらに芸術に宗教性を求めた天心の思いも反映されていると思う。
柿の葉の葉脈が金泥で描かれている。そのせいで、柿の実と葉が、仏像の頭上にある天蓋のように感じられるのだ。人慣れしても野性味を失わない聖なる黒猫がそこにいる。
《猫に烏》も、白猫と菊、烏と柿の木という４つの物しか描かれていない。ここでも全面金屏風というのは、ただの装飾性ではなく、聖なる空間を示しているように思える。
向かって、左隻の烏と柿の実・葉は、物質性の象徴で、上から下に向かう重力に従っている。わずかな筆運びで烏の存在感と重さを描き出す春草の筆力には、見るたびに舌を巻く。
右隻の白猫と菊は、精神性の象徴で、上昇する運動を表わしている。白猫には重さすらなく、菊は、文字通り「昇華」して、大地から天に向かって花開いている。花火のようにすら見える。夏の花火が霊魂を天に帰すという営みだったことすら思い起こさせる画面だ。
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