精神科医は偏見を持っている? 生活保護と精神疾患(能力主義と差別について)

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00:48 生活保護を受給している人
02:23 能力主義と差別
06:53 解決策はない。知ると楽になる

今日は「生活保護と精神疾患」というテーマでお話しします。

精神科の患者さんで、生活保護を取っている人、生活保護を選ばざるを得ない人、生活保護を取ろうとしたけれどできなかった人はたくさんいます。

僕ら精神科医は生活保護の人に対してどのように考えているのか、偏見はあるのかないのか、などをお話ししようと思います。

■生活保護を受給している人

日本で生活保護を受給している世帯は1.6%と言われています。
精神疾患のある人は人口の約3.3%です。
生活保護を受けていて且つ精神疾患のある人は結構います。
統合失調症、気分障害(反復性うつ病、双極性障害)、精神発達遅滞(知的障害)、発達障害など。

働こうと思ってもなかなか続かず、働く知識、技量、体力、知能に障害がある人がいます。
このように生活保護を取らざるを得ない人は多くいます。

また、親族からの援助がないパターンもあります。
虐待を受けていて小学校、中学校とあまり教育を受けられず、若いうちは夜の店にいたけれどある段階から働けなくなってしまった人なども結構います。

■能力主義と差別

まず大事なことは「僕らには偏見がある」ということです。
それは「能力主義」という社会的な偏見です。

僕らの社会は能力主義社会なので、才能や努力によって報われると信じ切っています。努力をしていない人や才能のない人を見下しても良いのだ、という偏見を知らず知らずのうちに持っています。

ですが、これは間違っています。

努力ができる、才能があった、教育をしっかり受けた、勉強を頑張った、勉強を頑張れる環境があった、自分が素直だった、相手のことを尊重できる、倫理的に正しい、良い親だったのか、自分の判断が正しかったのか、最初に入った会社がどうだったのか、病気を発症したのか、などこれは個人の責任ではありません。
遺伝や運で決まっています。

努力できるかどうかも遺伝で決まっていますし、才能の有無も遺伝で決まっています。遺伝というのは運です。
教育を受けられる環境にあるのかも運です。
自分が素直なのか、意地悪な性格なのかも遺伝がありますし、遺伝でなかったとしても親の影響もあります。どんな親なのかも運です。

人間万事「塞翁が馬」なので、何を選択してもそれが正しい答えになるかどうかはわかりません。現時点で色々な情報を集めてこれがベストだという選択をしても、それが本当に良い判断かどうかはわかりません。

良いと思って入った会社でキャリアで失敗することもあります。
病気の発症も遺伝で決まったりします。

基本的には自分が成功できるかどうかはほとんど運であり遺伝子です。
今「頑張ろう」とすることは、自分の自由意志で決めているようで、実際は運命によって決められている要素が多くあります。

古今東西、哲学者や宗教学者が運命について語りました。

また、「いい人」も成功できません。
ある程度、悪いこともしている、裏表を使い分ける、清濁併せ呑むような人でないと成功できません。

僕らが「成功している」ということは、決して手放しで誇れるものではありません。
恥じろとも言いませんが、そんなに偉いことでもありません。

そう言ったことを理解することが大事です。

■解決策はない。知ると楽になる

能力主義や差別の問題を解決できるのかというと、解決策はあまりありません。

《今回の参考書籍》
マイケル・サンデル『実力も運のうち 能力主義は正義か?』(早川書房 2021)
エリック・パーカー『残酷すぎる成功法則』(飛鳥新社 2020)

ただ、このようなことを知らないといけません。
知ることで、自分の立場の見方が変わって楽になると思います。

・福祉国家? 共産主義?
それなら福祉国家ならば良いのか、共産主義を目指せば良いのかというとこれも難しいです。

福祉国家にするということは、大きい政府を作っていくことです。個人主義よりは共同体主義に変わっていくと、政府がやることが大きくなります。そうすると無駄が多くなり、税負担が大きくなります。
また、共産主義にすると競争力も低くなっていきます。自由にやらせた方が競争力は上がりますが、自由を制限すれば競争力は低下します。

現実的なことを言えば、組織は腐敗していくものです。ですから、大きすぎる政府というのはあまり正しくないということがわかっています。

・資本主義のルールの中でどう調整していくか
結局、資本主義のルールの中でどう調整していくかということになります。
財源をどう分配するのか、民主主義のルールをどう変えていくかが大事です。民主主義をそのままやっていると、弱い立場、マイノリティの人の意見は潰されてしまいます。そこもルールをうまく調整していく必要があります。

ややこしい問題の1つに、「食べ物は余っている」ということがあります。
では皆がハッピーかというとそうではありません。そこがすごく難しいです。

・生活保護の人は孤独
生活保護の人は必要最低限のお金しかもらえず、社会との接点が途切れてしまっているため孤独です。
僕らはお金を稼ぐ、活動する、ということでしか人間関係を保つことができません。その証拠に、昔の友人とは疎遠になるものです。ですから、仕事がないと孤独になっていきます。

自由な時間はありますが、病気の症状に苦しみながら時間を過ごさないといけないのは大変です。
生活保護の精神疾患の人は甘えではなく苦しい時間を送っています。苦しいので働けた方が良いのですが、働きに行くことが出来ません。そのような難しさ、苦しさを抱えています。

ではどうすれば良いかというと、デイケアや訪問看護を利用するのが1つの答えではありますが、それさえも怖い人もいるのは事実です。



僕らは自分ではこうかなと思っても、古今東西の頭の良い人たちのディスカッションを見るとそれはすでに考えられていて、否定されていることが結構あります。
どうしようもないことの結果が今の社会でもあります。そのようなジレンマ、ゲーム理論のバランスの中で起きています。

そのような中で他者を否定するのは、あまり良くないかなと思います。
無条件で人を否定することはできません。

かといって、いい人でも成功できません。そこもまたジレンマです。
人間社会は不思議な形だなと思います。

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 一般の方向けに、わかりやすく、精神科診療に関するアレコレを幅広く解説しています。動画における、精神分析や哲学用語の使用法はあくまで益田独自のものであり、一般的(専門的)な定義とは異っているところもあります。僕がもっとも説明しやすいとたまたま感じる言葉を選んだだけなので、あまり学術的にとらないでいただけると嬉しいです。
                 早稲田メンタルクリニック院長 益田裕介

『自己紹介』
益田裕介
防衛医大卒。陸上自衛隊、防衛医大病院、薫風会山田病院などを経て、2018年都内で開業。専門は仕事のうつ、大人の発達障害。といいつつ、「なんでも診る」ちょっと変人よりの町医者です。
趣味は少年ジャンプとお笑い。キャンプやスキーに行きたいです。
2020年6月5日より断酒継続中。

【参考】
厚労省みんなのメンタルヘルス https://www.mhlw.go.jp/kokoro/
カプラン 臨床精神医学テキスト第3版

#偏見 #能力主義 #差別

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